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大阪高等裁判所 昭和36年(う)801号 判決

被告人 倉内友弘 外一名

弁護人 谷口義弘

検察官 長木肇

主文

原判決を破棄する。

本件を舞鶴簡易裁判所に差し戻す。

理由

本件控訴の趣意は、被告人両名の弁護人谷口義弘提出の(同弁護人作成名義の)控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意第一点、訴訟手続の法令違反の主張について。

所論は、原裁判所は原審弁護人谷口義弘が為した刑事訴訟規則第一七九条の四の規定に則つた適法な期日変更の申請を却下し、昭和三六年三月一日、同月一五日、同年四月五日(判決宣告期日)の三回の公判期日を一度も弁護人の立会なくして開廷し、審理の上判決を宣告したものであつて、憲法第三七条三項に違反するのみならず、右弁護人の期日変更を申請する事由が、長期にわたり審理の遅延を来すおそれがないにも不拘、弁護人の出頭をまたないで開廷した点において刑事訴訟規則第一七九条の五、ひいては刑事訴訟法第二七六条に違反して判決した違法があり、右訴訟手続の法令違反は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄をまぬがれないというのである。

そこで記録を調べて見ると、原裁判所が昭和三六年一月一八日本件につき第一回公判期日を同年二月一日午前一一時と指定告知したところ、弁護人から同年一月三一日付で期日変更願があつたのでこれを容れ、同年二月一日附で同月一六日午前一一時と変更し、弁護人にその旨通知したが弁護人から、同月七日付を以つて京都地方裁判所が同弁護人に対し、同月一六日午前一一時を公判期日に指定した旨昭和三五年一二月二日付公判期日通知書を添えた公判期日変更願が提出されたため、原裁判所は同月九日再びこれを容れ、公判期日を同年三月一日午前一一時と変更した。ところが弁護人から、二月二〇日、右京簡易裁判所が同年一月三〇日以前に同弁護人に対し三月一日午前一〇時を口頭弁論並びに証人訊問期日に指定した旨の証明書を添えた期日変更願が提出されたけれども、原裁判所は三月一日右期日変更願を却下し、同日の公判期日には弁護人不出頭のまま開廷し、被告人の人定質問のみ行つて審理を続行し、次回公判期日を同年三月一五日午前一一時三〇分と指定告知したところ、弁護人から更に同月六日付を以て右京簡易裁判所が同年二月二八日以前に同弁護人に対し同年三月一五日午前一〇時を公判期日に指定した旨の証明書を添えた公判期日変更願が提出されたけれども、原裁判所は右申請を却下して、三月一五日の公判期日に弁護人不出頭のままで開廷し証拠調をした上結審して判決の言渡期日を同年四月五日午前一一時と指定し、同日判決を宣告したことがみとめられる。

弁護人の前記二月二〇日付及び三月六日付の各公判期日変更願には弁護人の希望日を附記している外、三月一日及び三月一五日の公判期日を原裁判所が指定する以前に既に、他の裁判所によって同じ期日が口頭弁論並に証人訊問期日若しくは公判期日に指定されていることの証明書が添附されていること、それ迄に既に二回にわたり原裁判所が弁護人の期日変更願を容れてそれぞれ期日を変更したことは前記のとおりであるけれども、変更された期日はいずれも弁護人の付記した希望日とは異つており、しかも期日指定後遅滞なく弁護人から期日変更願が提出され、原裁判所も二週間前後の極めて短期間を置いて期日を変更していることに鑑み、前記二月二〇日付及び三月六日付各公判期日変更願は刑事訴訟規則第一七九条の四第二項に所謂やむを得ない事由によるものと認めるのが相当である。そして右期日変更願が数回繰返されることにより裁判所は長期にわたり審理の遅延を来たす虞れがあると思料するときは、同規則第一七九条の五第二、三項所定の手続を行わなければ、弁護人の出頭をまたずに開廷することはできないものといわなければならない。従つて、原裁判所が弁護人のやむを得ない事由による公判期日変更申請を却下し、若しやむを得ない事由が長期にわたり審理の遅延を来たす虞れがあると思料するならば弁護人の出頭をまたずに開廷するためには刑事訴訟規則第一七九条の五第二、三項所定の手続を行わねばならないのに、何等その手続を行わずに、弁護人不出頭のまま開廷して審理を遂げ、判決を言渡したのは、結局刑訴法二七六条に違反し、被告人が憲法三七条三項等により保障された資格のある弁護人により弁護を受ける権利を不法に制限した違法があると言わなければならないのであつて、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。原判決はこの点において到底破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて、その他の論旨につき判断を省略し、刑事訴訟法第三七九条、第三九七条を適用して原判決を破棄し同法四〇〇条本文により本件を舞鶴簡易裁判所に差戻すことにする。

よって、主文のとおり判決をする。

(裁判長裁判官 小田春雄 裁判官 原田修 裁判官 松浦秀寿)

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